SLEEP SCIENCE
更年期と睡眠
夜中の発汗で目が覚める。眠れないのは気力の問題ではありません。仕組みと、我慢しないための選択肢。

眠れない週があるのは、あなたのせいじゃないよ
眠れなくなるのは、気のせいではありません
「若い頃はどこでも眠れたのに」。
40代後半から50代にかけて、多くの女性が睡眠の変化を感じます。寝つきが悪い。夜中に何度も目が覚める。朝早く目が覚めてしまう。
疲れているのに眠れない。この状態が続くと、自分の心の弱さのように感じてしまうかもしれません。
そうではありません。背景には、ホルモンの変化があります。
エストロゲンが減るということ
更年期とは、閉経をはさんだ約10年間
日本人女性の平均的な閉経年齢は50歳前後です。その前後5年ずつ、およそ45歳から55歳の期間を更年期と呼びます。
この時期、卵巣の働きが落ちて、エストロゲンの分泌が減っていきます。
月経周期の変動とは、違います
月経がある時期にも、エストロゲンは周期のなかで増減していました。ただそれは、上がって下がる波のようなもの。
更年期に起きるのは、波の高さそのものが下がっていく変化です。しかも減り方は一定ではなく、乱高下しながら全体として下がっていきます。この不安定さが、症状の出方にも影響します。
エストロゲンは、眠りにも関わっていた
エストロゲンには、体温調節を安定させる働き、セロトニンの働きを助ける作用、そして気道の筋肉を保つ作用があります。
減ることで、これらすべてが影響を受けます。
ホットフラッシュと、夜の汗
更年期の症状として最もよく知られているのが、ホットフラッシュです。
突然、上半身が熱くなる
顔や首、胸のあたりが急に熱くなり、汗が出る。数分でおさまることもあれば、長く続くこともあります。
夜に起きると、眠りが分断される
日中のホットフラッシュも困りものですが、眠りにとって問題なのは夜間のものです。
寝汗で目が覚める。パジャマやシーツが濡れて、着替えのために起き上がる。体が冷えて、今度は寒くて眠れない。
一度の中途覚醒が、そのまま長い覚醒になってしまいます。
なぜ起きるのか
体温調節の司令塔である視床下部は、エストロゲンの影響を受けています。エストロゲンが減ると、この調節が不安定になります。
わずかな体温の上昇を「熱すぎる」と誤って判断し、急いで熱を逃がそうとする。血管を広げ、汗を出す。これがホットフラッシュの正体です。
眠りを妨げるのは、それだけではありません
気分の変化
エストロゲンは、セロトニンという神経伝達物質の働きを助けています。減少に伴い、気分の落ち込みや不安が出やすくなります。
不安があると眠れない。眠れないと不安が強まる。この循環に入りやすい時期です。
睡眠時無呼吸のリスクが上がる
これは見落とされがちですが、重要です。
エストロゲンには、上気道の筋肉の緊張を保つ働きがあります。減少すると、眠っているあいだに気道が塞がりやすくなります。
閉経後の女性では、睡眠時無呼吸の頻度が明らかに上がることが知られています。閉経前と比べて数倍という報告もあります。
「更年期だから眠れない」と思っていたものが、実は無呼吸だったというケースは珍しくありません。いびきを指摘される、日中の眠気が強い場合は、検査を検討する価値があります。
夜間頻尿
エストロゲンの減少は、膀胱や尿道の粘膜にも影響します。夜中にトイレで起きる回数が増えることがあります。
関節や筋肉の痛み
肩、腰、手指の関節に痛みやこわばりが出ることがあります。痛みで寝返りが打てない、目が覚めるという形で眠りに影響します。
今日からできること
- 寝室を涼しく保つ いつもより1〜2度低めに。夏でも冬でも同じ
- 重ね着で調整する 厚手1枚より薄手を重ねるほうが、起き上がらずに調整できる
- 吸湿・速乾性のある寝具と寝間着 汗で濡れたまま冷えるのを防ぐ
- 枕元に冷たい水を置く 起き上がらずに飲めると、覚醒が長引かない
- 適度な運動 日中の運動が深部体温のリズムを整える。就寝直前の激しい運動は逆効果
引き金になるものを避ける
ホットフラッシュには、誘因があります。夕方以降は控えめにすると、夜間の発汗が減ることがあります。
- アルコール(特に赤ワイン)
- カフェイン
- 辛いもの
- 熱い飲み物
- 喫煙
医療という選択肢
我慢する必要はありません。
ホルモン補充療法(HRT)
減ったエストロゲンを補う治療です。ホットフラッシュに対しては最も効果が高い方法とされています。それに伴って、睡眠の質も改善することが多くあります。
過去に乳がんリスクとの関連が報道され、敬遠された時期がありました。現在では、開始年齢や期間、投与方法によってリスクが大きく異なることがわかっています。一律に危険なものではありません。
適応があるかどうかは、婦人科で相談してください。
漢方薬
HRTが使えない場合や、症状が軽度の場合の選択肢です。体質に合わせて処方されます。
睡眠時無呼吸の検査
いびきや日中の強い眠気があるなら、まずここを調べる価値があります。無呼吸が原因なら、更年期の対策をいくら重ねても解決しません。
心療内科・精神科
気分の落ち込みが強い場合。更年期うつという概念もあり、適切な治療で改善します。
男性にも、あります
更年期は女性だけのものではありません。
男性でも、加齢に伴ってテストステロンが減少します。個人差が大きく、女性のように明確な区切りはありませんが、疲労感、意欲の低下、そして睡眠の質の低下という形で現れることがあります。
このテーマについては、今後「男性の睡眠」で別の記事として扱う予定です。
まとめ
- 更年期は閉経前後の約10年間。エストロゲンが不安定に減っていく
- ホットフラッシュと夜間の発汗が、中途覚醒を引き起こす
- 体温調節の基準が揺らぐことが原因
- 気分の変化、夜間頻尿、関節痛も眠りを妨げる
- 閉経後は睡眠時無呼吸のリスクが上がる。いびきがあれば検査を
- 寝室を涼しく、重ね着で調整、アルコールとカフェインを控えめに
- ホルモン補充療法という選択肢がある。我慢するものではない
実践へ
今夜、寝室の設定温度を1度下げてみてください。
そして、薄手の羽織るものを枕元に置く。それだけです。
夜中に暑くなったら脱ぐ、寒くなったら着る。起き上がらずに調整できる状態を作っておくと、中途覚醒が長引きにくくなります。
この時期の変化は、通り過ぎるものです。ずっと続くわけではありません。ただ、通り過ぎるまでのあいだをどう過ごすかは、選べます。
「がんばらない。ゆるめすぎない」。眠れない夜を減らす工夫はしながら、眠れない夜があること自体は責めない。そのくらいがちょうどいいと思います。
参考
- Baker FC, et al. Sleep and sleep disorders in the menopausal transition. Sleep Med Clin. 2018;13(3):443-456.
- Kravitz HM, et al. Sleep difficulty in women at midlife: a community survey of sleep and the menopausal transition. Menopause. 2003;10(1):19-28.
- Bixler EO, et al. Prevalence of sleep-disordered breathing in women: effects of gender. Am J Respir Crit Care Med. 2001;163(3):608-613.
- Freedman RR. Menopausal hot flashes: mechanisms, endocrinology, treatment. J Steroid Biochem Mol Biol. 2014;142:115-120.
- 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会. ホルモン補充療法ガイドライン.
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