SLEEP SCIENCE
高齢者と睡眠
早朝に目が覚めるのは、体内時計が前に動いたから。衰えではなく変化として、折り合いをつける。

その時期に合った眠り方を、いっしょに見ていこう
眠りは、年齢とともに変わります
「昔は朝までぐっすり眠れたのに」。
60代、70代になると、多くの方がこう感じます。夜中に目が覚める。早朝に目が覚めて、そのまま眠れない。日中うとうとしてしまう。
これは病気ではありません。加齢に伴う自然な変化です。
ただし、「自然だから仕方がない」で終わらせる必要もありません。変化の中身を知れば、対応の仕方が見えてきます。
何が変わるのか
深い眠りが減る
一晩の睡眠のうち、深いノンレム睡眠が占める割合は、年齢とともに確実に減っていきます。20代と70代では、はっきりした差があります。
深い眠りは、多少の物音では目が覚めない状態です。その層が薄くなるということは、目が覚めやすくなるということ。
夜中に何度も起きるようになるのは、これが理由です。
体内時計が前倒しになる
年齢とともに、眠くなる時刻と目が覚める時刻が、両方とも早い方向にずれていきます。
夜8時、9時に眠くなる。朝4時に目が覚める。この「早寝早起き」は、体内時計そのものが前に移動した結果です。
メラトニンの分泌が減る
夜に分泌されるメラトニンの量が、若い頃より減ります。眠りを促す信号が弱くなるということです。
深部体温の下がり幅が小さくなる
眠りに入るには深部体温が下がる必要がありますが、この下がり幅も小さくなります。眠りを深く保つ力そのものが、穏やかになっていきます。
早朝覚醒との、付き合い方
朝4時に目が覚めてしまう。これが最も多い相談のひとつです。
眠った総時間を見てください
夜9時に寝て朝4時に起きたなら、7時間眠っています。これは十分な量です。
「4時に目が覚める」ことが問題なのではなく、「9時に寝ている」ことが理由かもしれません。
遅く寝れば、遅く起きられるか
必ずしもそうはなりません。体内時計が前倒しになっているため、寝る時刻を遅らせても、起きる時刻はあまり変わらないことがあります。結果として睡眠時間だけが短くなります。
夕方の光が、効きます
体内時計を後ろにずらしたい場合、夕方に光を浴びるのが有効です。散歩や買い物など、夕方に外に出る習慣を作ると、夜の眠気が来る時刻が少し遅くなることがあります。
逆に、朝早くから強い光を浴びると、さらに前倒しが進みます。
目が覚めたら、無理に眠ろうとしない
十分眠ったのに早く目が覚めただけなら、起きてしまって構いません。布団の中で「まだ寝なければ」と粘るほうが、かえって苦痛になります。
昼寝の、正しい使い方
日中の眠気は自然なことです。ただし、やり方があります。
30分以内、午後3時まで
長すぎる昼寝、遅い時間の昼寝は、夜の眠りを浅くします。
夜眠れない、昼寝が長くなる、さらに夜眠れない。この循環に入りやすいので、時間を決めることが大切です。
うとうとするなら、横にならない
椅子に座ったまま、目を閉じる。これだけでも休息になります。横になると深く眠ってしまいがちです。
気をつけたい病気
加齢による自然な変化と、治療できる問題は別です。
睡眠時無呼吸
いびき、呼吸が止まる、日中の強い眠気。高齢になるほど頻度が上がります。高血圧や心疾患のリスクにつながるため、放置しないほうがよい問題です。
むずむず脚症候群
夕方から夜にかけて、脚に不快な感覚が出て眠れない。じっとしていられず、動かすと楽になる。鉄不足が関わっていることがあり、治療で改善します。
レム睡眠行動障害
夢の内容に合わせて、大きな声を出したり、体を動かしたりする。ベッドから落ちる、隣の人を叩いてしまうこともあります。
将来的にパーキンソン病などの神経疾患につながる可能性が指摘されており、早めに神経内科で相談する価値があります。
うつ
早朝覚醒は、うつの症状のひとつでもあります。気分の落ち込みや意欲の低下を伴う場合は、加齢のせいと決めつけないでください。
薬について
睡眠薬は、慎重に
高齢者では、睡眠薬の影響が強く出ます。ふらつき、転倒、日中のもうろう感。転倒による骨折は、その後の生活を大きく変えてしまいます。
必要な場合はありますが、医師と相談しながら、量と種類を検討することが大切です。
他の薬の影響
高血圧、前立腺、パーキンソン病などの薬が、眠りに影響することがあります。複数の科にかかっている場合は、お薬手帳を持って薬剤師に相談すると整理できます。
自己判断でやめない
眠れないからといって、勝手に薬を増やしたり減らしたりするのは危険です。
認知症との関係
睡眠と認知機能の関係は、近年注目されている分野です。
眠っているあいだに、脳の老廃物が排出される仕組みがあることがわかってきました。睡眠の質が落ちると、この排出が滞る可能性が指摘されています。
ただし、「よく眠れば認知症を防げる」と言い切れる段階ではありません。研究が進んでいる途中です。
一方で、睡眠時無呼吸が認知機能に影響することは、比較的はっきりしています。治療できるものは治療する。これは確かな選択です。
まとめ
- 深いノンレム睡眠の割合が減り、目が覚めやすくなる
- 体内時計が前倒しになり、早寝早起きになる
- 早朝に目が覚めても、総時間が足りていれば問題ない
- 夕方の光が、体内時計を後ろにずらす
- 昼寝は30分以内、午後3時まで
- 無呼吸、むずむず脚、レム睡眠行動障害は治療できる
- 睡眠薬は転倒リスクに注意。医師と相談を
実践へ
夕方、外に出てみてください。
散歩でも、買い物でも、庭に出るだけでも構いません。夕方の光を浴びることで、眠くなる時刻が少し後ろにずれます。
そして、朝早く目が覚めたときは、それを責めないこと。
十分眠ったのなら、それでいいのです。暗いうちに起きて、静かに過ごす時間があるのも、悪いことではありません。
「がんばらない。ゆるめすぎない」。若い頃の眠りを取り戻そうとするより、今の自分の眠りと折り合いをつけるほうが、楽に過ごせます。
参考
- Ohayon MM, et al. Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals. Sleep. 2004;27(7):1255-1273.
- Mander BA, et al. Sleep and human aging. Neuron. 2017;94(1):19-36.
- Duffy JF, et al. Aging and circadian rhythms. Sleep Med Clin. 2015;10(4):423-434.
- Xie L, et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. 2013;342(6156):373-377.
- Glass J, et al. Sedative hypnotics in older people with insomnia: meta-analysis of risks and benefits. BMJ. 2005;331(7526):1169.
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