SLEEP SCIENCE
睡眠系ホルモンとは?
眠りを支えるホルモンはひとつではありません。メラトニン、コルチゾール、成長ホルモン、オレキシン。四つの受け渡しで一日が回っています。

仕組みがわかると、安心して眠れるよ
睡眠に関わるホルモンを、大きく四つに分けて見ていきます。眠りに向かわせるもの、目覚めさせるもの、眠っているあいだに働くもの、そして覚醒を保ち続けるもの。
メラトニン ── 夜を知らせる
メラトニンは、脳の松果体でつくられるホルモンです。暗くなると分泌が始まり、深夜にピークを迎え、朝には日中の低い水準に戻ります。
よく誤解されるのですが、メラトニンは眠りを引き起こすスイッチではありません。担っているのは「いまは夜だ」という情報を全身に伝えることです。この信号を受けて、深部体温が下がり、からだが休息の側へ傾いていく。眠りそのものを起こすのではなく、眠れる状態を用意する役割です。
メラトニンの詳しいしくみは、別の記事で扱っています。ここでは「夜を知らせる係」として位置づけておきます。
コルチゾール ── 朝を立ち上げる
メラトニンと対になって働くのが、副腎から分泌されるコルチゾールです。
夜間の後半から明け方にかけて上昇し、起床の直後にピークを迎えます。血糖を上げ、からだを活動できる状態に持っていく。目覚めを支えるホルモンです。日中をかけて下がっていき、夜には最も低くなります。
ストレスホルモンとして知られていますが、それは負荷がかかったときに追加で分泌されるからで、本来は一日のリズムを刻む役割のほうが基本です。慢性的な負荷で夜も高いままになると眠りが妨げられる、という話は、ストレスの記事で詳しく扱っています。
成長ホルモン ── 眠っているあいだに働く
成長ホルモンは、下垂体から分泌されます。名前のとおり子どもの成長に関わりますが、大人になっても分泌は続き、別の役割を担っています。
特徴的なのは、分泌のタイミングです。一日の分泌量のかなりの部分が、眠りに入って最初の深いノンレム睡眠のあいだに集中します。時刻そのものではなく、深い眠りが訪れることが引き金になる。
このとき何が起きているか。傷んだ組織の修復、たんぱく質の合成、脂肪の分解、免疫の調整。日中に使ったからだを整え直す作業が、まとめて進みます。
「寝る子は育つ」という言い方には実体があります。そして大人にとっても、最初の深い眠りをどれだけ確保できるかが、翌日の回復を左右します。夜更かしをして睡眠時間が削られると、削られるのは明け方の浅い眠りだけではありません。寝つく時刻が遅れれば、最初の深い眠りごと後ろにずれこみます。
オレキシン ── 覚醒を保ち続ける
四つめは、視床下部でつくられるオレキシンです。これは眠らせる側ではなく、起きている状態を維持するホルモンです。
日中、オレキシンは安定して分泌され続けています。これによって覚醒が保たれ、途中で眠りに落ちることなく一日を過ごせる。夜になると分泌が減り、覚醒を保つ力が弱まって、眠りへ移行します。
オレキシンを産生する神経細胞が失われると、覚醒を維持できなくなります。日中に突然眠り込んでしまうナルコレプシーという病態は、この機序で説明されています。
近年は、このオレキシンの働きを一時的に抑えることで眠りを助ける薬も使われるようになりました。眠らせる方向に押すのではなく、起こしている力をゆるめるという考え方です。
ひとつではないということ
四つを並べてみると、眠りが単純な仕組みでないことがわかります。
メラトニンが夜を知らせ、オレキシンがゆるみ、眠りに入る。深いノンレム睡眠のあいだに成長ホルモンが働いてからだを整える。明け方にコルチゾールが立ち上がり、目覚めへ向かう。この受け渡しのどこかがずれると、全体が影響を受けます。
だからこそ、ひとつのホルモンだけを補おうとしても、うまくいかないことが多いのです。サプリメントでメラトニンを足しても、日中のオレキシンの働きや、深い眠りの確保が伴わなければ、眠りの質は変わりません。
まとめ
・メラトニン ── 暗さに応じて分泌され、「いまは夜だ」と全身に伝える
・コルチゾール ── 明け方に上昇し、目覚めを立ち上げる。本来は一日のリズムを刻む役割
・成長ホルモン ── 眠りに入って最初の深いノンレム睡眠に集中して分泌され、からだを修復する
・オレキシン ── 日中の覚醒を維持し、夜に弱まることで眠りへの移行を許す
・眠りは受け渡しで成り立っており、ひとつを補うだけでは整わない
実践へ
四つのホルモンに共通しているのは、時刻ではなく光と眠りそのものに反応しているという点です。
朝に光を浴びればコルチゾールのピークがはっきりし、メラトニンの分泌開始も適切な時刻に前倒しされます。夜に照度を落とせばメラトニンが立ち上がりやすくなる。そして、寝つく時刻を安定させれば、最初の深い眠りが確保され、成長ホルモンの分泌も守られます。
特別なことをする必要はありません。起きる時刻を一定にし、朝に光を浴び、夜は暗くする。この三つが、四つのホルモンすべてに同時に働きかけています。
参考
・Van Cauter E, et al. Sleep, awakenings, and insulin-like growth factor-I modulate the growth hormone secretory response to growth hormone-releasing hormone. J Clin Endocrinol Metab. 1992;74(6):1451-1459.
・Sakurai T. The neural circuit of orexin (hypocretin): maintaining sleep and wakefulness. Nat Rev Neurosci. 2007;8(3):171-181.
・Brandenberger G, et al. Effect of sleep deprivation on overall 24 h growth-hormone secretion. Lancet. 2000;356(9239):1408.
・Arendt J. Melatonin and human rhythms. Chronobiol Int. 2006;23(1-2):21-37.