SLEEP SCIENCE
睡眠圧(アデノシン)と2プロセスモデル
眠気は二つの力の重なりで生まれます。起きているほど溜まる「圧」と、時刻で決まる「リズム」。早く寝ようとしても眠れない理由が、ここにあります。

仕組みがわかると、安心して眠れるよ
長く起きていれば眠くなる。これは分かりやすい。
けれど、徹夜明けの朝10時に、なぜか眠気が軽くなる瞬間がある。夜更かしを続けていると、深夜3時より夜9時のほうが眠かったりする。
眠気は、二つの独立した力が重なって生まれています。
二つのプロセス
1982年に提唱された2プロセスモデルは、いまも睡眠研究の基本的な枠組みとして使われています。
プロセスS(睡眠恒常性)
起きている時間の長さに応じて、じわじわ溜まっていく眠りへの圧力。眠ると減っていきます。砂時計のようなイメージです。
プロセスC(概日リズム)
体内時計が刻む、時刻によって決まる覚醒の信号。起きている時間の長さとは無関係に、決まった時刻に強くなり、弱くなります。
眠気は、このSが高く、Cの覚醒信号が弱まったときに強くなります。逆に、Sが高くてもCが強く覚醒を支えている時間帯では、眠りたくても眠れません。
溜まっていくもの — アデノシン
プロセスSの正体として最もよく研究されているのが、アデノシンという物質です。
脳の細胞はエネルギー源としてATPを使います。ATPが分解されるとアデノシンが生じます。つまり、脳が働けば働くほどアデノシンが溜まっていく。
溜まったアデノシンは、覚醒を維持している神経の働きを抑え、眠りを促す神経の働きを解放します。これが「起きているほど眠くなる」の実体です。
そして眠っているあいだに、アデノシンは分解されて減っていきます。朝すっきり目覚めるのは、この圧が抜けた状態です。
カフェインが効く理由
カフェインは、アデノシンが結合する受け皿に先回りして座り込む物質です。
アデノシンそのものを減らすわけではありません。溜まってはいるのに、その信号が届かなくなる。だから「眠気を消す」のではなく、眠気を感じにくくしているだけです。
ここに二つの注意点があります。
ひとつは、カフェインが切れたときです。座り込んでいたカフェインが外れると、その間にも溜まり続けていたアデノシンが一気に働きます。急に強い眠気が来るのはこのためです。
もうひとつは、体内に残る時間の長さです。カフェインが体内で半分に減るまでの時間はおおよそ5時間とされ、個人差もかなりあります。夕方4時に飲んだコーヒーは、夜9時の時点でまだ半分が残っている計算になります。
「寝つきは悪くない」と感じていても、深い眠りの量は減っていることが報告されています。
夜、いちばん眠れない時間帯がある
プロセスCには、ひとつ意外な性質があります。
体内時計が出す覚醒の信号は、一日を通じて緩やかに下がっていくのではなく、就寝の数時間前にいったん強まるのです。この時間帯は「覚醒維持帯」と呼ばれます。
一日の疲れでプロセスSは十分に高まっているのに、覚醒信号が強い。だから、普段の就寝時刻より2〜3時間早く布団に入っても、まず眠れません。
これは意志や体質の問題ではなく、設計上そうなっています。「明日は早いから今日は早く寝よう」がうまくいかないのは、正常な反応です。
早く眠りたいなら、寝る時刻を前倒しするより、起きる時刻と朝の光を前倒しするほうが確実です。体内時計そのものが動けば、覚醒維持帯も一緒に前へ移動します。
昼寝は、20分まで
昼寝が良いか悪いかは、プロセスSで説明できます。
昼寝をすると、溜まっていたアデノシンが減ります。午後のパフォーマンスは上がりますが、夜に使うはずの圧を先に使ってしまうことになります。
長く眠るほど、また深い眠りに入るほど、この目減りは大きくなります。だから昼寝は、深い眠りに入る前に切り上げるのが基本です。20分程度、遅くとも15時までが目安とされています。
夜眠れない人が昼間に長く寝てしまい、さらに夜眠れなくなる——この循環はよく起こります。
まとめ
・眠気は、溜まる圧(プロセスS)と時刻のリズム(プロセスC)の重なりで生まれる
・プロセスSの実体はアデノシン。脳が働くほど溜まり、眠ると減る
・カフェインはアデノシンの受け皿を塞ぐ。半減期はおよそ5時間
・就寝の数時間前には覚醒維持帯があり、早く寝ようとしても眠れない
・昼寝は夜の睡眠圧を先取りする。20分程度、15時までに
実践へ
起床時刻を一定に保つ。 プロセスSは起きた瞬間からゼロに近い状態で溜まり始めます。起床時刻が動けば、夜に十分な圧が溜まっているかどうかも毎日変わってしまいます。就寝時刻より、起床時刻のほうが土台です。
カフェインの門限を決める。 就寝の8時間前を目安に。緑茶やほうじ茶にも含まれています。
早く寝ようとしてもうまくいかない夜は、無理に布団の中で粘らないでください。眠れないまま横になっている時間が長いほど、「布団=眠れない場所」という結びつきが強くなります。いったん起きて、暗い部屋で静かに過ごすほうが、結果として早く眠れます。
メラトニンヨガ™が「眠るための実践」ではなく「眠りが訪れるのを待つ実践」である理由も、ここにあります。眠気は起こすものではなく、条件が揃ったときに向こうから来るものです。
参考
・Borbély AA. A two process model of sleep regulation. Human Neurobiology. 1982
・Porkka-Heiskanen T, et al. Adenosine: a mediator of the sleep-inducing effects of prolonged wakefulness. Science. 1997
・Drake C, et al. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before going to bed. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2013
・Dijk DJ, Czeisler CA. Contribution of the circadian pacemaker and the sleep homeostat to sleep propensity. Journal of Neuroscience. 1995