SLEEP SCIENCE
筋トレと睡眠
筋肉が育つのは、ジムではなく布団の中。眠る時間を増やすだけで、成績は上がります。

できることから、ひとつずつでいいんだよ
壊して、作り直す
筋トレをすると、筋線維に微細な損傷が生じます。
その損傷を修復する過程で、以前より強い状態に作り替えられる。これが筋肥大の基本的な仕組みです。
修復は、眠っているあいだに進みます
成長ホルモンの分泌は、入眠後の最初の深いノンレム睡眠でピークを迎えます。筋タンパクの合成が最も活発になるのも、この時間帯です。
つまり、眠らなければ、トレーニングの効果は完成しません。
ジムで追い込んだ翌日に3時間しか眠らないなら、その追い込みは無駄になりかねない。「トレーニングと栄養と休養」と言われますが、休養の中心は睡眠です。
睡眠不足が、筋肉に与える影響
テストステロンが減る
テストステロンは筋肉の合成に関わるホルモンです。分泌の多くは睡眠中に起こります。
健康な若い男性を1週間、睡眠5時間に制限した研究では、日中のテストステロン値が10〜15%低下しました。これは、10〜15歳分の加齢に相当する変化です。
コルチゾールが増える
睡眠不足はコルチゾールを増やします。このホルモンは、筋タンパクを分解する方向に働きます。
合成が減り、分解が進む。筋肉にとっては最悪の組み合わせです。
回復が遅れる
筋肉痛が長引く。次のトレーニングまでに戻らない。結果として、トレーニングの頻度を落とさざるを得なくなります。
パフォーマンスが落ちる
睡眠不足の状態では、最大挙上重量、持久力、反応速度がいずれも低下します。同じメニューがこなせなくなる。
ケガのリスクが上がる
注意力の低下と、フォームの乱れ。若いアスリートを対象にした研究では、睡眠時間が8時間未満の選手はケガの発生率が明らかに高いという結果が出ています。
逆に、トレーニングは眠りを助けます
関係は一方通行ではありません。
寝つきがよくなる
定期的な運動が、入眠までの時間を短縮し、深い眠りを増やすことは、多くの研究で確認されています。
日中の活動量が、夜の眠気を作る
睡眠圧は、起きているあいだに蓄積されます。体を使えば、その圧は高まります。
デスクワークだけの日と、トレーニングをした日で眠気が違うのは、このためです。
ただし、時間帯に注意
就寝直前の高強度トレーニングは、交感神経を高ぶらせ、深部体温を上げます。眠りを妨げる可能性があります。
一般には、就寝の3時間前までに終えるのが目安とされます。
ただし個人差があります。夜のトレーニング後によく眠れるという人もいます。自分の反応を見て判断してください。
何時間眠ればいいのか
7〜9時間
一般成人の推奨と同じですが、トレーニングをしている人はこの範囲の上側を意識したほうがよいとされます。
アスリートは、さらに長い
競技レベルの選手では、9〜10時間を推奨する報告もあります。実際、多くのトップアスリートは長時間眠っています。
増やすと、成績が上がる
大学バスケットボール選手に睡眠時間を10時間まで延ばしてもらった研究では、スプリントタイム、シュート成功率、反応速度のすべてが改善しました。
トレーニング内容を変えずに、眠る時間を増やしただけで成績が上がる。この事実は、もっと知られていいと思います。
大会前、大事な日の前
前日だけ眠っても、遅い
大事な日の前夜だけ長く眠っても、それまでの睡眠負債は解消されません。
2日前が、より重要という説も
前夜は緊張で眠れないことがあります。だからこそ、その前の晩をしっかり眠っておく。これは実践的な考え方です。
眠れなくても、慌てない
前夜に眠れなくても、一晩ならパフォーマンスへの影響は限定的です。「眠れなかった」という不安のほうが、実際の睡眠不足より影響が大きいこともあります。
プロテインと、就寝前の食事
就寝前のタンパク質
寝る前にタンパク質を摂取すると、睡眠中の筋タンパク合成が高まるという報告があります。
ただし、消化に負担がかかると眠りが浅くなります。就寝直前の大量摂取は避け、消化しやすい形で、少し前に摂るほうがよいでしょう。
カフェインの注意
プレワークアウトサプリメントには、高用量のカフェインが含まれていることがあります。半減期は4〜6時間。夕方以降のトレーニングで使うと、夜の眠りに影響します。
アルコールは、最も避けたい
トレーニング後のアルコールは、筋タンパク合成を抑制します。さらに眠りの後半を乱すため、二重に不利です。
まとめ
- 筋肉が作り直されるのは、眠っているあいだ
- 睡眠不足でテストステロンが減り、コルチゾールが増える
- 合成が減り、分解が進む。筋肉には最悪の組み合わせ
- 睡眠不足はパフォーマンス低下とケガのリスクを高める
- 逆に、運動は寝つきをよくし、深い眠りを増やす
- 就寝3時間前までに終えるのが目安。個人差あり
- 睡眠時間を増やすだけで、競技成績が上がる
実践へ
今週、トレーニングをした日の睡眠時間を、いつもより30分だけ延ばしてみてください。
早く寝るのが難しければ、朝を30分遅くする。あるいは、20分の昼寝を足す。
トレーニングの内容を変えるより、簡単で、効果が確かかもしれません。
そして、追い込んだ日に眠れなかったからといって、翌日さらに追い込まないこと。
「がんばらない。ゆるめすぎない」。回復が追いつかないまま重ねる負荷は、成長ではなく消耗になります。
参考
- Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.
- Dattilo M, et al. Sleep and muscle recovery: endocrinological and molecular basis for a new and promising hypothesis. Med Hypotheses. 2011;77(2):220-222.
- Mah CD, et al. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 2011;34(7):943-950.
- Milewski MD, et al. Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes. J Pediatr Orthop. 2014;34(2):129-133.
- Res PT, et al. Protein ingestion before sleep improves postexercise overnight recovery. Med Sci Sports Exerc. 2012;44(8):1560-1569.
あわせて読みたい
- 睡眠系ホルモンとは?
- ノンレム睡眠とレム睡眠
- 心拍変動と心拍数の関係
- 大人と睡眠