SLEEP SCIENCE
ストレスとは?
ストレスは悪いものではありません。速い経路と遅い経路、二段構えで動くしくみと、それが眠りに何を起こすのかをたどります。

仕組みがわかると、安心して眠れるよ
まず押さえておきたいのは、ストレスそのものは悪いものではない、ということです。
締め切りがあるから集中できる。人前に立つ緊張があるから、準備をする。適度な負荷は、能力を引き出します。問題になるのは、負荷が強すぎるとき、そして負荷が去ったあとも反応が続いてしまうときです。
二段構えで動くしくみ
ストレスに対するからだの反応は、速さの違う二つの経路で起きます。
ひとつめは、交感神経を通じた反応。数秒で立ち上がります。心拍が上がり、瞳孔が開き、筋肉に血が回る。アドレナリンが分泌され、いつでも動ける状態になります。目の前の危機に即応するためのしくみです。
ふたつめは、ホルモンを通じた反応。こちらは分単位でゆっくり立ち上がります。脳の視床下部から下垂体、そして副腎へと指令が伝わり、コルチゾールというホルモンが分泌される。この経路は、頭文字をとってHPA軸と呼ばれます。
コルチゾールは血糖を上げ、エネルギーを動員し、炎症を抑えます。長く続く負荷に耐えるための備えです。速い反応が「今すぐ逃げる」ためのものだとすれば、遅い反応は「しばらく踏ん張る」ためのもの。
コルチゾールは、本来なら朝に高い
ここで大事なのは、コルチゾールがストレス専用のホルモンではないという点です。
何もなくても、コルチゾールは一日のなかで大きく変動しています。夜間の後半から明け方にかけて上昇し、起床の直後にピークを迎える。そこから日中をかけて下がっていき、夜には最も低くなる。
朝に高いのには理由があります。血糖を上げ、からだを活動できる状態に持っていく。目覚めを支えるホルモンでもあるのです。メラトニンが夜に上がって眠りに向かわせるのと、ちょうど対になっています。
問題は、このリズムが崩れるときです。
慢性的な負荷が続くと、夜になってもコルチゾールが下がりきらなくなります。本来なら最も低いはずの時間帯に、まだ高いままでいる。すると、からだは「まだ活動する時間だ」という信号を受け取り続けることになります。
眠りに何が起きるか
夜のコルチゾールが高い状態は、眠りの三つの側面に影響します。
寝つきが悪くなる。交感神経が優位なままなので、副交感神経への切り替えが起きにくい。布団に入っても、からだが休息モードに入らない。
眠りが浅くなる。深いノンレム睡眠の割合が減り、途中で目が覚めやすくなります。夜中に目が覚めて、そのまま考えごとが始まってしまう、という経験はここに関係しています。
早く目覚めてしまう。明け方のコルチゾール上昇が前倒しになり、まだ眠るべき時間に覚醒してしまう。強いストレス下で「朝早く目が覚めてしまう」のは、この機序で説明されることがあります。
眠れないこと自体がストレスになる
ここに、やっかいな循環があります。
ストレスで眠れない。眠れないこと自体がストレスになる。翌日のパフォーマンスが落ちて、それがまた負荷になる。夜になると「今夜も眠れないのでは」という予期が生まれ、それがさらに交感神経を刺激する。
この循環に入ると、最初のストレス源が解消されても眠れなさが残ることがあります。原因と結果が入れ替わってしまうのです。
だからこそ、眠れない夜に「眠らなければ」と力を入れるのは逆効果になります。眠ろうとする努力そのものが、覚醒を強めてしまう。
まとめ
・ストレス反応は、交感神経による速い経路と、コルチゾールによる遅い経路(HPA軸)の二段構え
・コルチゾールはストレス専用ではなく、本来は朝に高く夜に低いリズムを持つ
・慢性的な負荷で夜のコルチゾールが下がりきらないと、寝つきの悪化・浅い眠り・早朝覚醒につながる
・眠れないこと自体が新たなストレスとなり、循環が自立してしまうことがある
・「眠ろうとする努力」は覚醒を強める方向に働く
実践へ
夜のコルチゾールを下げるために、直接できることはあまりありません。できるのは、下がりやすい条件をつくることです。
朝に光を浴びる。コルチゾールの朝のピークがはっきりすれば、夜に向けた下降も明確になります。リズムの振幅が大きいほど、夜の低さも保たれやすい。
夜は照度を落とし、からだを温めてから冷ます。深部体温が下がる過程は、副交感神経が優位になる過程と重なります。
そして、眠れない夜には眠ろうとしない。布団のなかで考えごとが始まったら、一度起きて暗い場所で過ごし、眠気が来てから戻る。メラトニンヨガ™が「がんばらない」を軸に置いているのは、努力が逆に働く領域があるからです。
参考
・Van Cauter E, et al. Roles of circadian rhythmicity and sleep in human glucose regulation. Endocr Rev. 1997;18(5):716-738.
・Vgontzas AN, et al. Chronic insomnia is associated with nyctohemeral activation of the hypothalamic-pituitary-adrenal axis. J Clin Endocrinol Metab. 2001;86(8):3787-3794.
・Han KS, et al. Stress and sleep disorder. Exp Neurobiol. 2012;21(4):141-150.
・Riemann D, et al. The hyperarousal model of insomnia. Sleep Med Rev. 2010;14(1):19-31.