SLEEP SCIENCE
ヨガと睡眠
運動なのに、なぜ眠くなるのか。呼吸と体温から見たヨガと、夜に向くもの・向かないもの。

うまくやろうとしなくて、だいじょうぶ
運動なのに、眠くなる
運動をすると目が覚める。これが普通です。
走ったあと、筋トレのあと、交感神経が優位になって体は活動モードに入ります。だから、就寝直前の激しい運動は眠りを妨げます。
ところが、ヨガは違います。やったあとに眠くなる。むしろ落ち着く。
同じ「体を動かすこと」なのに、なぜ逆の反応が起きるのでしょうか。
呼吸が、中心にある
ヨガと他の運動の最大の違いは、呼吸を意識し続けることです。
長い呼気が、副交感神経を優位にする
息を吸うとき、心拍は速くなります。吐くとき、遅くなります。これは誰の体でも起きている反応です。
つまり、吐く時間を長くすれば、体は落ち着く方向に傾きます。
ヨガでは、ポーズをとりながら、ゆっくり長く吐き続けます。動いているのに、自律神経は休息側へ向かう。この組み合わせが、他の運動にはない特徴です。
動きと呼吸を合わせる
ヨガでは、動きに呼吸を合わせます。上げるときに吸い、下げるときに吐く。
この作業には、注意が必要です。呼吸と動きを合わせようとしていると、考えごとが入り込む余地が減ります。頭の中がうるさいまま布団に入るのを防げます。
体温を上げて、下げる
眠りに入るには、深部体温が下がる必要があります。
そして体温は、一度上げたほうが、そのあと大きく下がります。入浴が眠りに効くのと同じ理屈です。
ヨガの動きは、体を穏やかに温めます。激しい運動ほど上がらないので、興奮せずに済む。それでいて、そのあとの放熱で眠気が生まれます。
上げすぎず、でも上げる。この加減が、夜のヨガに向いています。
緊張に、気づいていない
これは、実際に指導していると最もよく見る問題です。
力んだまま、眠ろうとしている
肩が上がっている。奥歯を噛みしめている。眉間に力が入っている。
本人は気づいていません。「リラックスしてください」と言われても、そもそも自分が緊張していることに気づいていないので、緩めようがない。
ヨガは、気づくための時間
ポーズをとると、体のどこかに張りを感じます。そこで初めて、「ここが硬かったのか」と気づく。
そして、力を抜く感覚を思い出す。これが、布団に入ったときにも効いてきます。
夜に向くもの、向かないもの
ヨガと一口に言っても、種類によって効果が正反対です。
夜に向くもの
- 陰ヨガ 一つの姿勢を3〜5分保つ。深く緩む
- リストラティブヨガ ブロックやボルスターで体を支え、完全に脱力する
- 寝る前の簡単なストレッチ 前屈、ねじり、脚を壁に上げる
- 呼吸法(プラーナヤーマ) 吐く時間を長くするもの
朝や日中に向くもの
- パワーヨガ、アシュタンガ 動きが速く、体温と心拍が上がる
- ホットヨガ 発汗と高温で交感神経が働く
夜に激しいヨガをすると、他の運動と同じく目が冴えます。「ヨガだから眠くなる」わけではありません。
やってはいけないこと
- 就寝直前に強度の高いポーズ
- 「今日はサボった」と焦って夜に詰め込む
- 眠るためにやろうと力む
がんばらない、という設計
眠りは、努力すると遠のきます。
「眠らなければ」と思うほど、眠れない。この経験は誰にでもあると思います。眠りは、努力が逆効果になる数少ない領域です。
メラトニンヨガ™が「がんばらない」を軸にしている理由
強度の高いヨガを夜にやれば、体は活動モードに入ります。深いポーズを完成させようとすれば、そこに力みが生まれます。
眠るための時間に、達成すべき目標を持ち込まない。「今日はここまでできた」を求めない。
「ゆるめすぎない」も、同時に
かといって、何もしないのがいいわけでもありません。
まったく体を動かさない日が続くと、日中の活動量が足りず、夜の眠気も弱くなります。体は使ったほうが、眠りは深くなる。
がんばらない。ゆるめすぎない。この中間、「ちょうどいい」ところを探す。それが、眠りに向かう体の状態です。
間(ま)という感覚
ポーズとポーズのあいだ。吸う息と吐く息のあいだ。動きが止まっている、その時間。
眠りに向かうのは、動作そのものよりも、この「間」のほうかもしれません。何もしていない時間を、焦らずに過ごせるかどうか。
エビデンスは、どこまで言えるか
正直に書いておきます。
不眠への効果を示す研究はあります
ヨガの実践が、入眠までの時間や睡眠の質を改善したという報告は複数あります。特に、不眠を抱える中高年女性やがん患者を対象とした研究で、一定の効果が示されています。
ただし、限界もあります
- 参加者の数が少ない研究が多い
- 「ヨガ」の内容が研究ごとにばらばらで、比較が難しい
- 効果を実感している人が続けやすいという偏りがある
- 薬物療法や認知行動療法と比べた大規模な比較は少ない
現時点で言えること
ヨガは、不眠の治療法として確立しているわけではありません。ただ、副作用がほとんどなく、他の方法と併用できて、自分でできる。試す価値のある選択肢です。
効果がなければ、やめればいい。それくらいの気持ちで始めるほうが、続きます。
まとめ
- 他の運動と違い、ヨガは呼吸を中心に置くため副交感神経が優位になる
- 長い呼気が、体を落ち着く方向に傾ける
- 体温を穏やかに上げ、そのあとの放熱で眠気が生まれる
- 力んでいることに「気づく」時間としての価値がある
- 陰ヨガ、リストラティブは夜向き。パワーヨガ、ホットヨガは朝向き
- 眠るために力むと、逆効果になる
- 研究はあるが限界もある。確立した治療法ではない
実践へ
今夜、ひとつだけ試してみてください。
壁に脚を上げて、5分。
仰向けになり、お尻を壁に近づけて、脚を壁に沿って上げる。腕は体の横に置く。目を閉じて、ゆっくり吐く。
それだけです。ポーズの名前も、正しい形も、気にしなくて構いません。
5分経ったら、ゆっくり脚を下ろして、そのまま眠りに向かってください。
うまくできたかどうかを判定しないこと。「がんばらない。ゆるめすぎない」。5分間、何もしない時間を持てた。それで十分です。
参考
- Wang WL, et al. The effect of yoga on sleep quality and insomnia in women with sleep problems: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry. 2020;20(1):195.
- Mustian KM, et al. Multicenter, randomized controlled trial of yoga for sleep quality among cancer survivors. J Clin Oncol. 2013;31(26):3233-3241.
- Zaccaro A, et al. How breath-control can change your life: a systematic review on psycho-physiological correlates of slow breathing. Front Hum Neurosci. 2018;12:353.
- Krauchi K, et al. Warm feet promote the rapid onset of sleep. Nature. 1999;401(6748):36-37.
- Bankar MA, et al. Impact of long term Yoga practice on sleep quality and quality of life in the elderly. J Ayurveda Integr Med. 2013;4(1):28-32.
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